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 料理はマリアが作ってくれている。  一口食べ、いつも通りの美味しさに、ノースは思わず笑みがこぼれた。  毎日の料理はもちろん、マリアには主に家事をしてもらっている。最近は乾物の作り方も覚え、おかげで廃棄食材を大量に貰っても、無駄になる事がなくなった。  まだまだ幼いマリアだが、少しずつ確実に成長している。  皿の料理を食べ終わると、ノースはポケットから紙を取り出した。壁から剥がしたあの貼り紙だ。  ノースは悩んでいた。  身体的な限界が近いのは、ノース自身が一番よく分かっている。しかし、借金の取り立ては厳しく、ゆっくりと休む暇などない。  隣の部屋のマリアがいる辺りを、ノースは見つめる。  先日、借金取りが来た時に、家の外でしていた会話をノースは聞いてしまった。 『あの娘が高く売れる店を探しておけ』  それは、ノースが一番恐れていた事だった。  街の様々な場所で働くノースは、売られてくる女の子がいる事を知っていた。  ノースにそれを教えてくれた娼館の支配人は、ここに売られて来る娘達はまだましだと言っていた。売られ先によっては、死んだ方がマシだと思えるような場所もあるのだと。  そして、死ぬ事も叶わず、絶望したまま生きる事になると。  どんなに働いても、借金は数年で返せるような額ではない。一度、マリアと逃げ出した事があったが、すぐに見付かり連れ戻された。金を借りた人間が逃げても、どこにいるのか分かる情報網がある事を、借金取りはノースを殴りながら自慢げに語っていた。  マリアと一緒に逃げる事は出来ない。  大金を手に入れなければ、マリアが売られるのは時間の問題だった。  ノースはまた紙を見る。  もうこれしかないと思った。
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