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空を黒く厚い雲が覆い太陽を隠し、辺りはまるで夜のように暗い。雷鳴が轟き、不気味な雰囲気をかもしだしている。その空の下、天高くそびえる城があった。人々の恐れの対象。魔王が住まう、魔王城である。
その城の中、玉座の間で一人の若者が倒れていた。
「こ、んな……所で……無様に……死ぬわけには……」
玉座の間には時折、雷鳴が響くが、他の物音は一つもせず静まりかえっている。魔王城だというのに、魔王どころか一匹の魔物も存在しない。
若者、ノースは誰もいない城の中、今にも息絶えようとしていた。
「嫌だ……」
何故こんな事で死ななくてはならないのか。
ノースは己の不運を呪った。
「まだ、死ねない……」
ある目的の為に、ノースは魔王城に来た。まだ、その目的は達せられていない。
「マリア……」
ノースには故郷に置いてきた妹がいた。マリアという名の、幼い少女。頼れるものがなければ生きていく事も出来ないか弱い妹の為にも、ノースはここで死ぬわけにはいかなかった。
「ごほっ」
咳き込むノースの口から血がこぼれ、床にじわりと小さな血溜まりを作る。ノースの気持ちとは裏腹に、無情にも命は消えようとしていた。
「い、や……だ……」
ノースの視界がにじむ。にじんだ視界の先に見えるのは、小さくなり俯くマリアの姿。
妹は笑えない子だった。
妹は泣けない子だった。
妹は常に怯えている子だった。
妹の姿がノースの目に次々と浮かぶ。
いつも縮こまって部屋の隅で丸まって、声も出せずに震えていた。
妹には普通の暮らしをさせたかった。
妹にはわがままを言わせてやりたかった。
妹には他の子供と同じように伸び伸びと遊ばせてやりたかった。
しかし、それももう叶わない。妹を守る事も出来ず、ただ命を無駄にする無力な己が情けなかった。
力なく瞼は閉じられ、ノースの頬を涙が伝う。
「ご、めん」
ノースの声は誰にも届くことなく、部屋の中に消えていった。
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