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バーの高さがだんだんと上がるにつれて、脱落して行く選手も目立ち始める。
そしてついに向井くんと、もう一人の選手に絞られていわゆる決勝みたいな状態。
どちらもなかなか譲らない記録を重ねて行き、ついにバーの高さが5mを越えた。
じっとそのバーを見据えた向井くんがポールを抱えて走り出す。
大きくしなったポールから弾き出された向井くんの体がバーの上を舞っていく。
…が、
マットに落ちた向井くんの体と一緒にバーが落下してしまった。
「あぁぁ…惜しかったのに…」
隣で呟く美紀に私も思わずため息をついた。
もうちょっとで跳べたのに…
悔しそうに髪をガシガシと掻き上げる向井くんの表情が痛々しくて見てるこっちまで辛くなる。
ポールを拾い上げて、再びスタート地点に戻って行く向井くんの姿をじっと追った。
同じくもう一人の選手もバーに接触して1本目を失敗する。
これでとりあえずは、ふりだしに戻ってホッとした。
「今度こそは跳べるよね」
不安そうに見守る美紀の横顔に私は美紀の背中を叩いた。
「大丈夫、向井くんだもん。
絶対跳べるよ!」
その言葉通りに向井くんは2本目を成功させた。
だけどもう一人の選手も2本目を成功させる。
そして最後の3本目…。
それはまるでスローモーションのように私の目に焼き付いて行く。
ポールからしなやかに舞い上がった向井くんが光と一体化して彼の影がバーを乗り越えて行った…。
グラグラと揺れているバー…
お願い!
落ちないで!
私は手を握りしめながら心で強く願った…。
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