心の在り処

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「だけど… 一度だけ言わせてくれる…? 俺…藍田さんが好きだったよ。 1年前からずっとね…」 「えっ…?」 「君があの土手からグランドを眺めてるのに気づいたのは去年の春だった。 だけど俺は、好きでもない女と平気でキスするような男だし… 純粋そうな君を壊してしまいそうで怖くて声をかける事も出来なかったんだ。 あの雨の日… 本当はあんな事するつもりじゃなかったけど… 濡れた君の髪を見たら我慢出来なくなってしまった。 傷つけてゴメン…」 じっと私の瞳を見つめながら言う向井くんに私の心がグラグラと揺れる。 「俺は朔也に言わせると、少し変わり者で偏屈らしいから… 朔也の方がずっと君を大切に出来ると思う。 だから… 俺は藍田さんを諦めるよ」 ふふっと笑った向井くんがゆっくりと私の腕を解放する。 「もっと…早くに藍田さんを捕まえておけば良かった」 少し悲しそうに微笑んだ向井くんは、私から少しずつ離れて行く。 「向井くん…」 「いいよ、解ってるから言わないで。 君は朔也の女だからね。 だけど、今日は会いに来てくれてありがとう。 俺、来年のインターハイは絶対優勝するから。 それが君を傷つけた事への償いだと思ってる。 …朔也と… 仲良くね…」 ニコっと微笑んだ向井くんが、私に背中を向けて走り出した。 遠ざかって行くその背中を見つめながら私の瞳には涙が溢れていく。 …私も… 向井くんが好きでした…。 だけど、それはもうお互いが過去形で伝えた思い。 『キスしたらその人を好きになるってホント?』 その答えはYESだったんだよ…向井くん。 小さくなって行く彼の姿に私は心で囁いていた。
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