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すっかり土砂降りの雨の中、プレハブのドアを開けた彼は、私も中に入れてくれた。
だけど道具でいっぱいのプレハブの中はとても狭くて、彼と私の距離はほんの20㎝。
いまにも密着してしまいそうなその距離に私の胸が激しく鼓動する。
「あ…あのっ…どうもありがとうございます」
「…しばらく止みそうにないね」
「…はい…」
窓から外を眺めながら彼がため息をつく。
「ねぇ…君、名前なんて言うの?」
ゆっくりと振り向いた彼の顔が目の前にあってドキドキが収まらない。
「…藍田美月(あいだみづき)……です」
「ふぅーん…藍田美月か…
綺麗な名前だね」
そう言って微笑んだ彼に、一気に顔が赤くなってしまった。
近くで見たら、すごくカッコいい…
まともに顔が見れなくて、俯いていた私の頭の上から落ちて来た言葉…
「藍田さんてさ、毎日あの土手からグランド見てるけど…
いつも誰を見てるの…?」
「えっ?
…だ…誰って訳じゃないですけど…」
「…ふーん」
じっと私を見据える視線が熱くて息が苦しくなる…。
まるで捕えられた獲物のように、その視線から逃げる事すら忘れてしまったかのように身動きすら取れなくて。
そんな私を見つめていた彼の瞳がゆらりと揺れて。
「藍田さん…
キスしてもいい?」
「はっ?」
焦りながら目を泳がせた私の頬に彼の両手が添えられて、顔をグッと持ち上げられた。
「えっ…?」
「ごめんね。もう限界」
ポツリと呟いた彼の唇がゆっくりと私の唇に重なって行く。
何度か優しく触れたあと、ピタリと重なった唇に私の体が熱く火照って行く…。
彼の濡れた髪からしたたる水が私の頬に伝った瞬間、
私は彼に恋をした…。
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