家族の肖像

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「いつか美月が悩む時期が来ると思っておったが。 おぬしの進学のための費用なら心配はいらぬわ」 「…でも… 家のローンもあるのに大変でしょ?」 「実は、美月に話さねばならぬ事があるのじゃ」 「えっ?」 不思議そうにママを見つめると、やっぱりママはニコリと笑って話し出した。 「美月のパパがのう… 我々のために残してくれたのだよ」 「パパ??」 「そうなのだ。 美月のパパは今年の5月に亡くなったのだ」 余りに明るく言うママに私は一瞬言葉を失う。 「君のパパとママが結婚しなかった理由はね、 パパのお仕事が国境なき医師団だったからなのだ。 美月のパパは恵まれない国の子供たちの為にカンボジアで働いておった。 実はママも美月が出来る前はカンボジアで看護師をやっておったのじゃ。 で、そこでパパとママは恋に落ちた。 しかし君のパパは、ほとんどが海外勤務ばかりでのう… まぁそのために医師免許を取得したくらいの人だったから。 美月が出来た時も、二人で悩んだのだが… お互いが一番いいと思う形がこうだっただけでのう… 美月には父親のいない人生で可哀想な事をしたと思うが… これはパパとママがお互いの意志を尊重して選んだ人生なのじゃ」 …ビックリだった…。 私のパパはずっと他に家庭を持ってる人なんだろうって思いこんでたから。 「だけど今年の5月にのう、パキスタンの派遣先で病で亡くなった。 美月のパパは最後まで国境なき医師を貫いてくれたのじゃ。 そして我々に遺言なんてものを残して下さった」 そう言ってママは、自分の部屋の引き出しからエアメイルを持ち出して来た。 「読んでみなされ」 渡されたエアメイルの宛名には、ママと私の名前が記載されていた。
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