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ようやく自分の進みたい道が見えた私は、進路希望を医大に定めた。
元々勉強は真面目にやってる方だったし、今のレベルでも狙えそうな医大はいくつかある。
バイクの免許を取るために頑張ってバイトしたけれど、医大を受験するとなるとそれどころではなくなってしまった。
だけど、私は自分の希望する進路をまだ朔也に話せずにいた。
私と離ればなれになって暮らすのは嫌だからとプロ入りをしないと言い切った朔也の言葉が私の中で引っかかっていたから。
もしも…
私がパパのように国境なき医師を目指したいなんて伝えたら…
朔也はどう思うんだろう…。
ママが夜勤で留守の週末、ウチに泊まりに来てくれて朝までずっと私を抱きしめて眠る朔也の横顔を見つめながら私はやっぱり悩んでいた。
そんなある日…
それはやっぱり激しい雨の日だった。
この天気だから朔也のサッカー部も練習が休み。
昼休みに朔也からメールが来て、今日はケーシー篠原くんたちとカラオケに行って来ると連絡があった。
学校帰りの激しい雨の中、あの公園の横を通過しようとした私の目に飛び込んで来たのは
傘もささずに公園のベンチでうずくまっている人の姿。
…えっ?
私は慌ててその人に駆け寄って声をかけた。
「向井くん!」
その声にゆっくりと顔を上げた向井くんは、ずぶ濡れのままやんわりと微笑んだ。
だけどその瞳からは、雨ではない光の粒が溢れてる…。
「藍田さん…神様って本当にいるんだね。
今、君に会えますようにって祈ってたら本当に会えた…」
弱々しく言う向井くんに私はどうしていいのか戸惑った。
だけどこのままじゃ向井くんが風邪を引いてしまう…。
「向井くん…こんな寒い中で、ずぶ濡れになってたら風邪引くよ…?
と…とりあえず話だったら聞いてあげれるから…
一緒に来て?」
傘を差しだして私は向井くんの手を掴み、とりあえず私の家へ連れて行く事にした。
無言のまま、まるで夢遊病者のようにフラフラとしてる向井くん…。
いったい彼に何があったんだろうか?
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