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私の家に着いて、向井くんにタオルと、朔也がお泊りする時用にウチに置いて行ったスエットの上下を渡した。
「お風呂入れたからとりあえず温まって?
制服は乾燥機に入れるから…」
声をかけても無言のまま俯く向井くんの背中を押して強引に浴室に押し込む。
しばらくドア越しに様子を伺ってたらようやくバスルームに入って行ったようなので私は向井くんの制服を乾燥機にセットしてからキッチンでお湯を沸かした。
お風呂から出て来た向井くんがやっと口を開いて
「藍田さん…ゴメン…」
って謝ってる。
「ココアでいい?」
「うん…」
立ちつくしたまま戸惑ってる向井くんをソファーに座らせてから、私はココアを入れて向井くんの反対側のソファーに腰かけた。
「…どうしたの?」
私の問いかけに向井くんはやっぱりまだ戸惑って視線を泳がせる。
「あんな所で傘もささないでうずくまってるなんて向井くんらしくないよ?
私で良かったらいくらでも話を聞いてあげるから話してみてよ…」
もう一度声をかけたら、ひとつため息を吐き出した向井くんがポツリポツリと口を開いた。
「…親父が…
…いや…朔也の親父さんが…
昨日…どうしても会って話したいって連絡よこして…」
そこまで言って、向井くんはまたうずくまって肩を揺らし始めた。
まるで子供のように小さく見える向井くんの姿に私はなんだか胸が苦しくなって向井くんの隣に移動した。
うずくまったままの向井くんの頭をポンポンと撫でてあげる。
私が不安な時、いつもこうして朔也が落ち着かせてくれるから…。
私の手が触れた時、一瞬向井くんの体がビクンと揺れたけど、彼はうずくまったままゆっくりと話し始めた。
「あの人…癌なんだって…。
まだ…朔也と朔也のお袋さんには話してないらしいけど…
余命1年って宣告されたって…」
小刻みに震える向井くんから吐き出された言葉に私も衝撃を受けた。
…朔也のお父さんが癌…?
私が遊びに行くたびにいつだって優しく迎えてくれるお父さんが…
あと1年しか生きられないなんて…
…嘘だ…
思わず私も涙が溢れ出す…。
神様は…
なんて残酷なんだろう…。
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