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静か過ぎるリビングで、再び向井くんが言葉を紡ぐ…。
「あの人…
たぶんもう…俺に父親として向き合ってあげれるのはこれが最後だと思うって…
俺に貯金通帳を渡してくれたんだ…
俺がこの世に生れたのを知った…
1歳の誕生日からずっと貯めて来たんだって笑いながらさ…
毎月自分の小遣いの中から2万円づつ…
朔也のお袋さんにバレないように…
コツコツと俺名義の貯金通帳に貯めてて…
進学の足しにしてくれって…」
…朔也と向井くんのお父さんは…
そう…こういう人だって私は知ってる。
一緒に暮らせなくても…
ずっと向井くんの成長を見守って来た人だ。
「ウチの母親はさ…
あの人と同じ会社で働いてて…
ずっとあの人が好きだったって言ってたけど…
あの人と酔った勢いで…俺を身ごもったらしいんだよね。
だけどあの人はすでに朔也のお袋さんと婚約してて…
だから俺がお腹にいた事をあの人にずっと言わなかったんだって。
俺が生れて1年経つ頃にさ…
母親の兄貴が海外に転勤になってあの家を譲り受けて引っ越ししたら…
5軒隣にあの人の家があったんだって…
それであの人は俺が生れてた事を知ったって…
だけどうちの母親は認知すらさせてくれなかったって言ってた」
私は黙ったまま、向井くんの背中を撫で続けた。
「ガキの頃からさ…
家族で行く旅行とか…
いつもあの人は俺も一緒に連れて行ってくれて…
なんでこのおじさんは俺にこんなに優しいんだろうって不思議に思ってたけど…
中学の時にさ…
俺の親父ってどんな人だったんだろうって疑問に思って…
母親を問いつめたんだよね…
それで初めて俺の父親が朔也の親父さんだって知って…」
再び言葉を詰まらせて肩を揺らしだした向井くんを私は抱きしめていた…。
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