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「藍田さん…俺…
あの人の事…本当は大好きだった…
ずっと…
心の中で叫んでたんだ…
親父…親父…って…」
「うん…」
「だけどっ…
それを言葉に出せなくて…」
「うん…」
顔を上げた向井くんが私にしがみついて胸の中に顔をうずめた。
「向井くん…朔也のお父さんはね…
ずっと向井くんの成長を見守ってたよ?
朔也の家のリビングにはね…
朔也と向井くんが写ってる写真がいっぱい飾ってあった。
一緒には暮らせなかったけど…
向井くんのお父さんはずっと向井くんを愛してたんだから。
朔也の前では言えないだろうけど…
お父さんに残された時間は、お願いだから…
ちゃんと呼んであげて…?」
無言のまま私にしがみつく向井くんに私はゆっくりと言葉を落とした。
「私のパパね…
国境のない医師だったんだ。
だけど今年の5月にパキスタンで亡くなっちゃった…
私…結局パパにきちんとパパって呼んであげれないままだった。
だけどね、私のパパも離れててもずっと私を愛してくれてたんだ。
だから今はそんなパパを誇りに思ってるし、パパと同じ医師になりたいって思ってる。
私にはそれしかパパの愛情に対するお返しがしてあげれないから…
だから向井くんはお父さんが生きてるうちに、悔いの残らないようにちゃんと向き合って欲しい」
私の言葉で向井くんが顔をあげてじっと私を見つめた。
「藍田さん…」
「向井くんも…
ずっと自分を愛してくれてたお父さんを誇りに思って欲しいな」
ニコリと微笑んで言った私を今度は向井くんがぎゅっと抱き寄せた。
「俺…親父にとって誇りに思えるような息子になれるかな?」
「もちろんだよ。
だって向井くん、向井くんのお父さんはね…
学生の頃は、棒高跳びの選手だったんだって。
私にこっそり教えてくれたんだよ」
驚いたように向井くんが私を見つめた。
「やっぱり親子なんだね」
私の言葉に向井くんがやっと微笑む。
「藍田さん…俺…
来年のインターハイは絶対に全国で優勝するから」
「うん、約束だよ?」
「うん…」
頷いて向井くんが私のおでこにそっとキスをした。
「これは朔也には内緒でお願いします」
「と…当然ですっ!」
慌てて向井くんから離れた私に、向井くんがクスクスと笑った。
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