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「じゃあ美月、またな」
玄関で私の髪にキスを落として朔也は向井くんと帰って行った。
パタンと閉じられた玄関でしばらく立ち尽くしていた私を見つめてママが言った。
「美月…心配なら様子を見て来るのも良かろう」
「うん」
私は玄関から出て、駅に向かう道を走り出した。
あんなにも激しく降っていた雨はすっかり上がってて、空には星が輝いてる。
だけど…朔也と向井くんの間に流れてた空気は…
氷のように冷たく張りつめていた…。
必死に走っていると、あの公園から聞こえて来た声に私はビクッとして足を止めた。
「どういう事なんだよ!」
それは私が今まで聞いた事もない朔也の怒りの声だった…。
「…だから俺の悩みを藍田さんに聞いてもらっただけだよ」
「何で美月なんだよ…?
お前、美紀ちゃんと付き合ってるんだろ?
彼女に相談に乗ってもらえばいいじゃねーか!」
「…美紀ちゃんにはフラレたよ」
「はっ?
何でお前がフラレるんだよ?
美紀ちゃんはお前にゾッコンだったろうが!」
「俺が…ちゃんと彼女の思いに応えてやれなかったからだよ…
ずっと俺を見て来た朔也だったら解るだろ?」
怒りで声を荒らげる朔也の姿に私は怖くて声を出せずにそのまま植込みの陰に隠れてしまった。
「まさか一輝…
お前…美月が好きなのか…?」
朔也から投げつけられた言葉に向井くんの瞳がゆらゆらと街灯の灯りに揺れ出した。
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