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「…ああ…
好きだよ…
去年の春からずっと見て来た」
じっと朔也を見据えて答えた向井くんに私の胸がズキンと痛んだ。
向井くんの言った言葉は…過去形じゃなかったから…
言葉を失った朔也に向井くんはやんわりと微笑む。
「だけど藍田さんが好きなのは朔也、お前だ」
「一輝…」
「彼女を幸せに出来るのもお前だけなんだよ」
はーっとため息をついてしゃがみ込んだ朔也が向井くんを見上げる。
「お前…それでいいのかよ…?
美月は…お前にとって探し続けてたシンデレラなんだろ…?」
「そうかもしれないけど…
朔也だって彼女を俺に奪われたくはないだろう?」
「当たり前だ!」
フフッと笑った向井くんは白い息を空に向かって吐き出した。
「あと1年だけ我慢してくれよ…
そしたら俺、お前と藍田さんの前から消えるからさ…」
「何だよそれ…?」
「ふっ…そのうち解るよ。
それよりそろそろ帰らないか?
親父さんとお袋さんが心配するだろ?」
「あ…ああ…そうだな…」
公園の中を抜けて駅へ向かう道を歩いて行くふたつの影を見つめながら私は思った。
私が本当に求めているのはどっちの影なんだろう…。
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