愛しさと悲しみと

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そしてついに朔也の決勝戦の日…。 私は今日も美紀と一緒に朔也の応援に来た。 今日は高梨高校の生徒も大勢応援に来てるらしくて、美紀が言うには向井くんも来てるらしい。 「向井くんと一緒に見ればいいのに?」 って美紀に聞いたら、 「なんか同じ学校の子と一緒に見るからって言ってた」 少し残念そうに美紀が言った。 ちなみに朔也のご両親もどこかに見に来てるらしいけど、 朔也から試合が終わったら紹介するねって言われてる。 朔也のご両親ってどんな人なのかな… 少しドキドキしながら試合を見守っていた。 前半はどちらのチームもガードが固く、朔也も積極的にシュートを打ち出すけれど、 どれも阻止されてしまって無得点のまま終わった。 「美紀、ちょっとトイレ行って来るね」 美紀に断って私は、トイレへ行こうと階段を下りて行った。 だけど、休憩中って事もあってトイレは大混雑。 行列はトイレの外まで繋がってる…。 私はサッカーグランドのトイレを諦めて、陸上競技場の方のトイレに行こうと会場を出た。 壁伝いに陸上競技場の方へ続く小道を歩いていた時、水飲み場の陰から聞こえた声に私はドキっとした。 「アンタを俺の父親だなんて認めてない! 偉そうに親父ヅラすんなよ!」 「一輝!」 グリーンのポロシャツを着た長身の優しそうな男の人が声を上げると、水飲み場の陰から飛び出して来たのは向井くんだった…。 「あっ…」 立ち尽くしてた私の姿に気付いた向井くんが、私の腕を掴んで陸上競技場の方に向かって走り出す。 「あのっ…!向井くん…?」 走りながら声をかけてみたけど、向井くんは黙ったまま私の腕を引いて競技場の入り口に駆け込んだ。 ようやく止まった向井くんが、私を壁際に押し当てて両手を壁について私を閉じ込める。 「…今の… 見なかった事にしてくれる…?」 「あ…あの…」 「いずれ藍田さんも知る事になってしまうだろうから言うけど…」 向井くんはいつもと全然違って、あの朔也を見つめていた鋭い視線へと変わる。 「今のおっさん…」 「はい…」 「俺の父親なんだけど…」 「…はい…」 ふーっと向井くんがため息をつく。 「あの人…朔也の父親だから」
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