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「だけど…
美月の空には最初から月があったんじゃ…
僕は最初から星にしかなれなかったって事だ」
「先輩…ごめんなさい…」
大野先輩はニコリと微笑んだ。
「月も星もさ…
太陽の光が強すぎて昼間は見えないけど…
太陽を失った美月なら必ず月を見つけられる。
…だから
もう美月が迷う事は二度とないよね?」
「はい」
「うん。
早く僕に追いついて来て、一人でも多くの患者を救える医師になれよ?」
「…先輩だって…
まだ研修医にもなってないくせに」
ふたりでアハハって笑ったあと、先輩がじっと私を見つめて言った。
「やっぱり美月はそうやって笑ってて」
「…先輩…」
「せめて一度だけでいいからちゃんと名前で呼んでよ…」
切ない瞳をゆらゆらと揺らす先輩を私はじっと見つめ返す。
「……右京…ありがとう」
私の声にふっと目を閉じて微笑んだあと、
先輩は私を抱きしめていた手を緩め自分の膝から外して立ち上がった。
「美月、君と一緒にいれて楽しかったよ。
君が研修医になった時は、僕がしごいてやるから。
必ず登って来い」
そう言って部屋のドアを開けて私に目配せをする。
私はニコリと笑って頷いて、その部屋を後にした。
空からは、まん丸い満月が明るく私の足元を照らしていた…。
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