真吾の憂うつ

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うかれて踊る 亮太と優美の背中を見ながら 孝弘は財布を取り出した。 広げた財布の中では 福沢諭吉が2人笑っていた。 『ドンマイ』 『ガンバレ』 そう孝弘を励ますかのように。 (トホホ…  今月の全財産が…) 孝弘は一つ息を吐き。 空を見上げて微笑んだ。 「まあ、いいかぁ」 公園のはるか上。晴れ渡る空には、小さな町ならひと飲みしそうな、巨大な雲がどっしりと浮いていた。 その巨大迷路から、一つ銀色の翼が飛び出した。 まるで行くあてもなくさ迷っていた子羊が、無限の草原を与えられたかのように、活き活きと空を駆け抜けている。 生きている証を、白い線に残しながら。 孝弘は小さく呟いた。 「頑張れよ…徹」 光を帯びた世界はどこまでも美しく、公園の木々を揺らす風は、羽毛を撫でるように今日も優しかった。     《真吾の憂鬱》       【完】
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