1. 帰りたい

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帰りたい。 突然そう思うことが、時々ある。 どこに帰りたいのか。それは、よく、わからない。 父の本が壁いっぱいに詰まった、パソコンデスクと私の洋服だらけの小さな部屋なのか 私の妄想が作り上げたどこにも存在しない世界なのか モンスターで溢れかえるオンラインゲームなのか 友達に嘘をついた夕暮れの公園なのか 二度と煌く夏を過ごすことは叶わない和歌山の祖母の家なのか はたまた、ここでは死にたくないと感じた赤い山の見える海の向こうの大陸か どうやら私は何一つ、築いて来なかった。 一つ場所に居続けることから逃げて、逃げて、逃げて そして今、自分がどこに帰りたいのかわからない。 大きく一度、深呼吸して 読んでいる本は一度閉じて胸に当て 遠くの空を少し怒ったように、挑むように額で睨めて 決して私の内側から一滴たりとも零すまい。 目蓋を持ち上げ目玉を露わに 瞳に映る全ての世界を取り込んでしまうべく 全てを取り込むことが出来たなら、私の内なる宇宙に、帰る場所はきっとある。
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