1章【全ての始まり】

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カイン様がそれに気づいたらしく、私達のいる場所に導術球を送ってきた。 緑色の球、これは身体能力向上効果を持つ補助の導術球だ。 一方の相手方の導術球は攻撃型。 幾つかの導術球が一ヶ所に集まり、巨大な炎を形成した。 ――!? あれは? あんな大規模な術、見たことがない。 その炎が私達に体当たりをするようにぶつかってくる! かわせない。 私は身を屈めた。 周囲からは熱い、痛いと耳を防ぎたくなるような悲鳴が聞こえてくる。 ……っ! 「……?」 あ、あれ? なんともない? 熱さも感じない。 私は不思議に思い目を開ける。 炎は何故か自分を庇うようにして周囲に飛び散っていた。 暫くして炎は消滅する。 マナは目を見開いた。 「なっ、なんなの、この勝術!? こんなの……始めてみたわ」 「戦導勝術士はカイン様が負傷させたはず……。それなのに。何故、ここまでの力が出せる!?」 リジン様を庇い、一般兵達は瀕死状態だった。 多分、カイン様の補助がなければ即死だった。 私でも分かる。 今の術は、私が知るどの戦導勝術士も使えない。 そして強力だ。 ――あれはなんなの? 「リジン様、確かにアスラは瀕死に追い込みました。ですが敵は最終的に川に落ちて逃げたそうです」 アスラ……。 あの人の名前だろうか? 「いや、だがそうだとしてもおかしい。戦導勝術士の腕は切断させたはず。勝術は片腕を切断した状態では効力が半減するはずだろう?」 「はい。た、確かに。じゃあこれはどういうことなんでしょう……?」 ……。 私は二人の会話に口を挟むことができなかった。 だって真実を知っているんだから。 私があの人を助けてしまったからだ。 心の奥底で、あの人がもしかしたら軍を退いてくれるんじゃって……淡い希望を抱いていた。 でもこれは死ぬか生きるかの戦い。 ――戦争なんだ。 私がバカだった。
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