第1話 大悪党降臨!!正義の味方は大反転

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   それは彼女が未だ幼い頃。  殺人を殺人と認識しておらず  死を死と認知していない。  ましてや、『それがいけないこと』  という事すら、認容していなかった幼女の頃。  四歳か五歳か、はたまた六歳か、それとも三歳かの頃。  気付けば彼女は、ソレを見ていた。  四肢が引きちぎられ、脳漿ブチ撒けて、顔が半分抉られ、胃の中身が、胃ごと出てしまっていた、『あなた』と呼ばれ、『お父さん』と呼んでいた男の肉塊を。  気付いた彼女は、ソレを視てしまった。  下半身はぐずぐずに溶かされ、頭は最早見る影なく焼き尽くされて、臓器を全部、全部全部撒き散らし、挙げ句の果てには、上半身に針山のように骨が突き刺さり、事切れていた、『おまえ』と呼ばれ、『お母さん』と呼んでいた女の肉塊を。  気付けば見ていて。  気付いたら視ていて。  気付いた後も、観ていた。  ただ、無感動に。  ただ、無情に。  そしてただ、無性に。  死にそうな蟻を観察するかのように、はたまた陸に上がってしまった鯉の死に際を凝視するかのように。  死んでしまった男を肢体をじっくりと、はたまた肉の塊になってしまった女の死体をじっくりと。  殺されたのか殺したのか、死んだのか死なされたのか、それすらも彼女には理解できなかったけれど。  そんなこと彼女には興味すらもなかったけれど。  ただ『なんとなく』。  ただ『なんとなぁく』  『気持ち悪いな』  なんて、感情の籠もっていなければ隠ってもいない。  裏表どころか裏表自体ない声で小さく小さく呟いて。  水が盆から床に零れ落ちるように自然に。覆水が盆に返るように不自然に。  嘗めるように、焼き付けるように、覚えるように、認めるように、理するように。  じっくりとまじまじと、ねっとりとじっとりと、両親と呼べる二人が物言わぬ肉の塊になったにも関わらず、平然として。  例えるならば、そう──  死にそうな蟻を観察するかのようでもなく、はたまた陸に上がってしまった鯉の死に際を凝視するかのようにでもない。  解剖された後の蛙を、診るように。  
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