第1話 大悪党降臨!!正義の味方は大反転

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   ……その後どうなったか。  そんな事は、きっと、いや、確実に。  年齢も認識も価値観も容姿も知識も、何もかも、幼かった彼女、に比べれば絶対に変化している今の彼女でも『ごめん。覚えてないや』という平坦な声で締めくくられて終わるだろう。  ──その後の事は良く覚えていない。  そんな凝り固められたテンプレートで、その惨たらしくて真っ赤っかで、確かにドス黒い死肉塊の目撃と、両親の死の体験と──『気持ち悪い』と言った伽草の心情を語れなくなれば、それは確かに、彼女のような無機質で、無気質で、無器質な性格でなかったのならば、どんなに素晴らしい事だろうか?  普通ならば(異常ならば)、そんな惨たらしい死肉塊を見たならば、錯乱し、狂乱し、取り乱して、泣き喚いて、吐瀉してしまって、壊れてしまうかもしれない。  約束通りならば(逸脱しているならば)、そんなドス黒くて真っ赤っかな両親の死の体験など、思い出しただけで陰鬱で、陰惨な感情に支配されてしまうかもしれない。  常識ならば(気狂いならば)、両親の死体を見て、視て、観て、その上で『気持ち悪い』だなんて言ってしまった自身に対して、底知れない罪悪感を抱くかもしれない。  だけど。  だけれども。  伽藍伽草は、そんな異はしない。  伽藍伽草に、そんな事は起こらない。  伽藍伽草から、そんな言は出ない。  気持ち悪いモノは、両親だろうと友達だろうと恋人だろうと、何だろうと、気持ち悪くて、気持ち悪いモノだし。  ……いや、今の今まで、今まで生きてきた内で、彼女に恋人などできた事は一度も無いし、それに彼女が他人に恋愛感情を抱いた事はまた一度も亡いけれど。  普通ならば──……。  否、伽草いわく『異常ならば』。  気持ち悪いから、錯乱して、狂乱して、取り乱して、泣き喚いて、吐瀉してしまって、壊れてしまうのだろう。  気持ち悪いから、そんなドス黒くて真っ赤っかな両親の死の体験など、思い出しただけで陰鬱で、また陰惨な感情に支配されてしまうのかもしれないのだろうし。  そして──気持ち悪いから、見たままに、視た通りに、そして観た様に、そのように、ただ気持ち悪いから。両親の死んだ肉塊に対して『気持ち悪い』と言ってしまうのだろうから。  ただ、気持ち悪いから。  ただ、気持ち悪いから。  
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