第1話 大悪党降臨!!正義の味方は大反転

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   彼女はちゃんと喜べるし、彼女はちゃんと怒ることもできる。  人並みに哀しみもあるし、何かを楽しむことも、何かを楽しようとすることもある。  ただ――それが余りにも薄いだけだ。  氷よりも薄くて、紙よりも薄い。  薄っぺら、なのだ。  両親の死肉に対して、思ったことは嫌悪感だけでは無い。  両親の死の体験に対して、感じたことは嫌気だけでは無い。  両親の死肉に、『気持ち悪い』と零した自分に、思うところが無い訳ではない。  あるにはあるのだ。  あるにはある――のだが。  それが彼女に認識されない。  それを彼女が認識しない。  それを彼女は認識できない。  余りにも薄すぎて、薄すぎて。  透明過ぎて、透明が過ぎるから。  真っ青な空に、真っ赤な風船が浮かんでいたのならば、容易く認識できる。  真っ黒な板に、真っ白なインクが垂れたのならば、容易に理解できる。  だが――……  真っ青な空に、真っ青な風船が浮かんでいたのならば、解らないだろう?  真っ黒な板に、真っ黒なインクが垂れたとしても、認識できないだろう?  つまりは、そういうことなのだ。  彼女の中で、彼女の世界で、彼女の透明で虚ろな世界では――  喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。  すべて、全て、総て、凡て等しく。  透明で、薄すぎて、『そこに居ないと同じ』なのである。  まるで、透明人間のように。  ――いや、それは最早透明人間なんかよりも、伽草のそれは、たちが数倍……否、数百万倍悪いかもしれない。  なにせ、透明人間ならば触れば解るし、色を付ければ認識できる。  だけれど、彼女のソレは感情だ。  だけれど、彼女のソレは思いだ。  だけれど、彼女のソレは想いだ。  だから、触れても解らないし、色を付けても認識できない。……そもそも、触れることさえできないし、色を付けることもできないのだから。  『できない』のだから。  想いはいつでも重いもの。思う事しかできない、しようとしない彼女が背負うには――……想いは、重すぎるのだ。  
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