【Ⅰ】

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結局今日は学校を休んだ。 泣き終わった途端に、七夕はそのまま寝てしまった。 泣くということは結構体力を使う。 元がモヤーシな七夕坊っちゃんは疲れてしまったのだ。 只今テディベアを抱いて爆睡中だ。 このテディベア、ハイスペックなのだ。 今朝のように朝七時きっかりに目覚ましボイスが鳴る。 お昼になると昼食を促すボイス、寮に戻ったらお帰りボイス、夕飯ボイスにその他の生活ボイス、終いにゃおやすみボイス。 七夕の声に反応して、まるで会話をする。 七夕によれば、お母さんが作ったらしい。 お母さん、ねぇ……。 七夕には不可解なことが多い。 七夕がこの学校にきたのは去年の暮れ。 噂によると例に漏れることなく七夕もどっかの御曹司、しかも長男。 けど──、 「『幼・小・中、通学した記録なし』ねぇ……」 興味本位でどんなとこ通ったか調べたらコレだ。 絶対ワケアリだろ。 本人に訊いても判らないだろうしなぁ。 七夕が自分自身について判ることは、 「なゆ──、七夕なの!!」 名前と、 「あのね、生まれたの、十六回!!」 トシ 年齢と、 「七夕、リンが好きなのー!!」 「リン」という存在だけだ。 他には何も知らない。 思い出には必ず「リン」がいて、「リン」がいない思い出はなかった。 「お前、何者なんだろうね」 眠る七夕の髪を梳いて、そんなことを呟いた。
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