宇宙同盟への道

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 一年後、カール星人は速度織り地球へと戻ってきた。 「ご苦労様です」  一年前とは違い落ち着いた様子でカール星人を出迎えた国連総長。カール星人は地球を見て、満足そうな顔をしていた。 「ふむ。どうやら、本当に地球を平和にできたようですね」 「はい。一年間、苦労しました。様々な思想を纏め上げるのには。そして、ご覧ください。これが、人類史上始まって以来の人類憲法になります」 「なるほど、全人類共通の法を創ったのですね」 「そうです。それて、見て分かるように、人類は平和になり、高貴な精神を持つようになりました」  総長より手渡された書面に書かれた憲法をカール星人は一条、一条熟読していた。これが、国連が用意した切り札であった。全人類を纏め上げ完成させた憲法。そこには、民族も宗教も思想を超越した人類の英知が詰まっていた。これで、宇宙同盟の加入は確実、そう思われた。  カール星人は渡された書面を総長へと返してこう言ってきた。 「残念ですが、この度、宇宙同盟への加入の件ですが、正式にお断りさせていただくことにしました」 「な、何故です!人類はこんなにも平和になったのですよ。こうして、手を取り合い、お互いを信用して・・・」 「だったら、何故、憲法に『人を殺してはいけない』となんて書いているのですか?」  カール星人は憲法の一つにあった殺人やその他の犯罪を禁止する項目を指差した。 「私達が謳う、高貴な精神とは相手を疑うこともない信頼が基本です。ですから、私達、同盟の間では人殺しや犯罪に関する規制は何一つ設けていません。お互いを信頼してますから。殺される心配も、何かを盗られるといった心配も一度もしたことがありません。ですが、あなた方の憲法では、犯罪行為の類を全て禁止しています。それは、つまり、相手のことを全く信頼していないという現れです。表面上だけの平和で、私達の同盟に加入されては、私達が困るのです。よって、今回の件は正式にお断りさせていただきます」  カール星人はそう言って、宇宙船へと乗り込み帰ろうとした。  一方、同盟を断られた人類といえば、一年の苦労が無駄になった腹いせに宇宙船を攻撃しようとした。だが、それらは簡単に無力化された。  信頼という同盟の前に、疑心暗鬼が籠もった武器など何の役にも立たないのだ。
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