スリリング・バスタイム

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留奈は居間の扉の前に鞄を置くと、 籐椅子に腰かけ、足をゆらゆらさせる。 留奈は籐椅子の古い匂いを感じながら溜め息をつく。 ・・・ここは「退屈」という名の牢獄。 お爺様もお婆様も私に旅行中はこの家にいることを強いた。 言いつけを守らなければ怒られる。 でも私にだって自由はあるはず。 家事だって、家の管理だってちゃんとこなしているのだから、 少しくらいバイトしたい。 もっと皆とお泊りしたり、遊んだりしたい。 でもお爺様とお婆様は言うの。 この家には「宝」が眠っているのだから、 必要な時以外は外に出てはならぬと。 ここに一人で住み始めた時、お爺様達の言いつけを守った方が良いのではないかと思ったことがあった。 七月の初めまで家のどこかしらで異変が起きていたのだ。 いつもは鍵のかかっているはずのお爺様の部屋の扉が開いていたり、 お婆様の昔の机の引き出しから書類が散乱していたり、 私のアルバムから写真が抜き取られていたり・・・ 気持ちの悪いことしかない。 でもそれは決まって私が家を空けた後に起こる。 私が家にいれば、何も起こらない。
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