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女は初めてためらった。
「いいの?」
「何を今更。さっきの死の遣いってのは、おまえの仲間が勝手にほざいていることだ。俺にはおまえが、たった一人で放り出された仔猫にしか見えねえよ」
「こねこ…とはまた、えらく可愛らしい比喩ね」
「気に入らなかったか?」
「…初めてだから。こんな風に話をする誰かと会えるのが」
「ひでえ奴らだな、おまえの仲間ってのはよ…人間誰しも好きでその見てくれに生まれた訳じゃねえのに」
女は黙って視線を落とした。
「まぁいい。ここを動くぞ。でないと、おまえを捕まえにぞろぞろ出てこられても困るんでな」
「捕まえ?」
「…何となくな。気にするな」
そうして男は左腕を差し出した。
女は黙って右腕を絡めた。
「悪いな、ここから出るにはこの方法しかないんだ。少なくとも船に到着するまでは、俺の女のふりをしてくれ」
「それは、ここが晩餐会だからね?女連れが一番目立たないわ。問題ないわよ」
「話が早くて助かるぜ」
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