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美しい夜の景色に溶け込むように、妖艶な男がひっそりと佇んでいた。 通常、男性に妖艶などと言えたものでないが、この男はそうとしか形容できない。 背は高く、細身の見事なまでに引き締まった体躯である。 上質のディナージャケットに鮮やかなボウタイ。銀の光沢があるドレスシャツ。どれも一歩間違えば悪趣味か、ちぐはぐな印象を与えるか、または服装に負けてしまうだろう。 だが男にはしっくり馴染んでいた。黒を基調とした正装に隠された身体は、見る者が見れば瞬発力の塊だとわかる。 健康的に日焼けした肌色に、深い翠の瞳。 その髪は黒く、よく見れば光を蒼く反射している。 少し長めの襟足にかけて、その蒼は度合いを増している。 特筆すべきは美貌だ。 精悍な野生動物を思わせるような頬のライン。 笑うと甘く上がる口角。 女性が放っておかないだろうその妖艶な美貌の持ち主は、今あり得ない状況を目にした。
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