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突然、目の前の景色が歪み…
人が湧いて出たのである。
それも、明らかに何もない空間から。
歪みから湧き出たヒトは、その場に崩れ落ちた。
咄嗟に男が支えなければ、完全に倒れこむところだった。
慌てて空間の歪みをかえり見るが、すでに何もない。
いつも通りの景色が広がるだけである。
続いて腕の中のヒトに目を落とす。
みたところ、怪我をしている様子はない。
柔らかい曲線を描く身体は、明らかに女性である。
男は慎重に体勢を変え、楽な姿勢に寝かせる。
アシンメトリーに切られたストレートヘアがさらりと流れ、この異邦人の顔が露わになった。
その髪の色は黒く、所々に金が混じっている。
顔立ちは整い、今は伏せられている瞼が上がれば、さぞ美人であろうことが容易に想像できる。
「…おい…大丈夫か?」
男はそっと呼びかけた。
が、反応がない。
男はそっと抱き上げ、もう一度呼びかけた。
わずかに眉が顰められ、瞼が震える。
男は一瞬の躊躇いもみせず、手に持っていたグラスに入った酒を自らの口に含むと、唇を重ねた。
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