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そういって家の上にある小窓に視線を移す。
私は、幼い記憶を呼び戻す。
確かにあの小窓からこの河原を見ていた気がする。
夏の匂いと夜空に輝く星、そして無数のホタルの光。
キラキラしていたあの頃の記憶が鮮明に蘇る。
「引っ越してきて随分経ってからなんです。この箱を見つけたのは」
私は、その箱を受け取る。
「引っ越していった人の住所を調べたんですけど、返ってきちゃって」
確かに引っ越して暫くは親戚の家を転々としていた。
「悪いとは、思ったんですけど、中をみさせて貰いました」
私は、その箱の蓋をあける。
分厚いアルバムと小物が入っている。
「あなた達を見つけたときすぐにわかりました」
彼女は、アルバムを開きあるページで手を止めた。
そこには、今いる河原で私とお兄ちゃんが佇む姿が写されていた。
「2人を見かけた時、すぐわかりました」
女性は、そう言って微笑んだ。
「じゃ私はこれで」
そういって女性は、家に入っていった。
その後ろ姿を見ては、私はある事を思い出した。
私達が引っ越す時に引っ越してきた家族の中にいた1人の少女。
父親と母親に連れられて幸せそうに一緒にいた少女。
その視線に気付いた兄が私の手をギュッと握って手をひいた。
ずーっとここに住んでいたのだろう。
彼女は、今まで苦労をした事のない幸せそうな笑みを浮かべていた。
決して不幸だったとは思わない。
だけど、父親という存在がいてくれたらと、そう思うのだった。
その気持ちを知ってか知らずか兄があの時と同じように手を握ってくれた。
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