未来 by ちか

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「母さん」 私はその場で泣き崩れた。 母の思いが、父が母に対する思いが指輪を通して伝わってくる。 「ちか」 兄が私の肩をさすった。 「お兄ちゃん」 「んっ?」 「私幸せになっていいんだよね?」 「ちか?」 「幸せになってもいいんだよね」 「何言ってんだよ。当たり前だろ」 そう言って私を抱きかかえ目を見つめる。 「おまえのその言葉を聞きたかった」 私は、兄の目を見つめ返す。 「幸せになれよ」 その言葉を聞いた瞬間涙が止まらなかった。 「兄ちゃん。ありがとう」 「なんだよ。急に」 「私、幸せになるから」 「うん」 「今まで心配かけた分、沢山沢山幸せになるから」 兄は、私を強く抱きしめた。 ずぅーと不安だった気持ちが少しずつ溶けていく。 人のぬくもりが私を溶かしていく。 私は、ただ当たり前の幸せが欲しかった。 多くを望んでる訳じゃない。 陽向で感じるあの穏やかな気持ちを感じたかった。 そう、母親に抱きしめられる時のようなぬくもりが。 「すみません」 突然、そう呼び掛けられて振り返る。
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