第四章 戦の前に

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             弍    時は戻り、戦いの後。  神奈は、目を潤ませて洋輔の足元で膝をついた。  それは、主の無事を喜んだ涙であり、自らの不甲斐なさを悔やむ涙である。  何度決意し、何度覚悟しようとも、戦いにおいて洋輔の足を引っ張り、洋輔に助けられてしまう現状。  九条家の者であれば、主の戦いを手助けし勝利へと導くのが務めである。  足を引っ張るなど言語道断。  洋輔の性格から、神奈の不手際を責めるような事は今まで無かった。  今回も、咎めたりはしないだろう。  それ故に、神奈は自分を責める。  神奈の立場や考えを理解しているだけに、洋輔は責めないのは当然ながら、慰めの言葉すらかけてやれない。  そこで、次郎丸が口を挟む。 「今は、白羽と黒羽を小屋に運んで、治療するべきじゃないか」 「あぁ、それなら大丈夫だよ。次郎丸」 「どういう事だ、洋輔」  洋輔は、答える代わりに河太郎の仕込み槍を手にし、目を閉じて同調を深めていく。  そして、槍の穂先を次郎丸に向けて軽く振った。
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