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洋輔に、それが伝わった。
だから最近、洋輔が自分に微笑みかけてくれるようになったと、紗理奈は勝手に思い込んでいる。
そう、思い込んでいる。
二十五歳を過ぎた女のあまりにも幼い恋心は、どこまでも一方通行であった。
そんな紗理奈は、今日も洋輔の横顔を見つめている。
最近の洋輔は、民俗学や地方の伝承についての書物をひもとき、何かを調べる事が多くなった。紗理奈が、密かに調べた彼の進路には、そういった関連のものでは無かった。
そもそも、洋輔は理数系が専攻である。
「どうして、折原くん?」
紗理奈は艶やかで色っぽい声を出し、洋輔に語りかけた。
当然、洋輔には聞こえないような小さな声で。
折原 洋輔は、司書の教師の視線などに気付きもせず、十数冊の書物を積み上げ一冊ずつ読んでいた。
大入道。
妖界における洋輔の仲間である雲外鏡は、次に洋輔に差し向けられる妖は大入道であろうと言った。
そう言われ、洋輔は戸惑った事を思い出す。
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