序章

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   神楽市狛井町。  世には知られていないが、この町には幾つもの秘密がある。一ヶ月と数日の間に、妖怪絡みの事件が数件発生した事もそのひとつ。  ただ、ニュースにすらなっていない。  秘密は、もうひとつ。  これは、市民にも知られていないのだが、神楽市役所の地下に警視庁の分室が存在するのだ。  それは、市役所職員ですら知らない事実でもある。  そして、その入り口は市役所のエレベーターと、一区画向こうにある警察署の地下駐車場の二ヶ所。  ただし警察署側の入り口からは、分室まで地下道を百メートル以上の移動が必要になる。  そんな市役所のエレベーター前に、折原 源治の姿があった。  他には、誰もいない。  源治は、エレベーターに乗り込むと、手慣れた様子で操作盤の蓋を開き、ボタンを押して蓋を閉じた。  元来、地下が無い筈のエレベーターが、ゆっくりと降下し始める。  そして、数秒で止まった。  折原流 古武術の創始者である彼は、年寄りとは思えない身のこなしで、エレベーターを降りる。
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