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――善良な警察官が殺された。
「輪島裕徳…森ノ宮公園前交番に勤めていた真面目で若い巡査…」
それが私の彼に対する印象であり特に光るものがあるという訳ではないし目立つ訳でもなかったが…一度しか共に仕事をした事のない彼の事を私は憶えていた。
「3年…か」
彼と仕事をしたのはおよそ3年前…女子大生が何者かに殺害された痛ましい事件だった――…
『山崎警視!お疲れ様です!』
『被害者は?』
『江島三咲…都内の美大に通っていたハタチの女子大生です』
『華の女子大生だってのになぁ…生きてる姿で会いたかったよ~』
『不謹慎だぞ』
『分かってますよ~堅いなぁ~』
『死因は腹部を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死…か』
『事件当時は雨も降ってましたし血が流れちゃったんですかね』
『山崎警視…あまり大きな声では言えませんが…どうやら被害者は乱暴された後に殺害されたようで抵抗の痕跡がありました』
『そうか…こんな人気のない所で雨に晒され独りで…可哀想に…』
被害者に手を併せた私の元へ彼は駆け寄り行儀よく敬礼した。
『検問張り終えました!』
『君は…?』
『こ、このたび森ノ宮公園前交番勤務となりました新人の――』
『おい、輪島!何してんだ!
さっさとこっちを手伝えよ!』
『本店にどやされっぞ~』
『長尾先輩!倉井先輩!す、すぐ行きます!先に行ってください』
『早くしろよー』
『お疲れ~』
『山崎警視!失礼します!』
『彼らは森ノ宮公園前交番の?』
『人手が足りないからってことで駆り出されたみたいですよ。
今、御門さんに挨拶したのは輪島裕徳って言う新人の巡査です。
オレ、同期でよく飲み行きます』
『無駄話してんじゃねぇ!
犯人は待っててくれねぇぞ!』
『人使い荒いなぁ…』
『輪島裕徳…か』
それが私と彼の出会いだった。
輪島巡査は地域の住人から愛され慕われた警察官で老若男女問わず人気のあった人物だった。
真面目で仕事に忠実で恨みを買う事などなかった彼がどうして…
「二階級特進かぁ…死にたくないけどなんか羨ましいッスね~」
「不謹慎だぞ」
自分の机に戻るとそこには一通の封書が置かれており取ってみた。
「御門さん宛てですよ」
差出人を見た私は驚愕した。
それは届くはずのない手紙…
「輪島裕徳…!?」
死者からの告発文だった――…
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