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2013年8月1日。
『こないで!』
深夜、由香は路地の窪みでバットを持ったドッペルゲンガーに襲われていた。
ビルの二階、雀荘の灯りだけが薄っすら二人を照らしていた。
一台の車が道路を通った。路地の窪みにいる由香に気づくはずもなく、車は通り過ぎた。
『誰か!!』
必死にポケットから携帯を取り出し、履歴から適当に発信ボタンを押した。発信先は美久だった。
『美久!助けて!!!』
振り下ろされたバットをかろうじてかわす由香。
『由香 !?どうしたの!』
携帯から美久の声、由香は携帯を握りそのまま道路に出た。直ぐ後ろにはドッペルゲンガーが鬼の形相で追ってくる。その瞬間、車のライトで目の前が真っ白になった。
『ゴンッ』
車は由香の後ろに居たドッペルゲンガーを軽く5メートル程吹き飛ばした。
音とはあまりにも比例しない飛距離、由香はその場に尻餅をついたまま動けない。
左手に持った携帯からは美久が由香の名前を呼ぶ声が漏れていた。
車から男が降りてくる、由香は美久と繋がっていた電話を切った。
『なんかやばそうだったからぶっ飛ばしちゃいましたけど、君……由香だよね?』
達也だった。
3ヶ月前、里帰りで島に戻って来ていた達也は島の異常を察知し、ネットゲーム友達の由香とコンタクトを取っていた、この日二人は島の情報交換をするため、会う約束をしていた。
『うん、多分あなたが今轢いた奴は、私のドッペルゲンガー……』
由香は達也との話で、以前からドッペルゲンガーの存在にうすうす感づいてはいたが、いざそれを目の前に動揺を隠せなかった。
達也はドッペルゲンガーに近づき体を調べ始める、由香も立ち上がり駆け寄った。
『おいおいやばいね、コレ、君そっくりだね、初めて由香の事も見たけど、って、もしかして君がドッペルゲンガーで俺、本物殺した?』
少しとぼけた調子で由香に問う。
『いや、証拠はないけど私が本物――襲われていたのは確かよ』
『だろうな』
『はじめまして――って挨拶なんてどうでもいいか』
そして由香は美久に電話を掛け直し、ごまかした。
「これが達也と初めて会った日の事」
美久はその話を聞き呆然と立ち尽くす。
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