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「ささ、ご飯の支度するからクミちゃん先にお風呂に入っといで。あ、まだ時間早いけどお風呂は好きでしょ?」
バーバラが微笑みクミを覗き込む。
「はい」
クミは下を向いたまま返事をし、風呂場へ向かった。
美久はソファーへ上品に座ると、テレビを眺めた。
数分、時間が経過。
美久は時計が気になって仕方がなかった。
現在10時30分、リミットまであと3時間30分しかないのだから。
「えっと美久さん?肩でも揉んであげようか?」
文也が美久の後ろに立ち肩を揉みだす、少し美久は嫌だった。
会社のセクハラ上司を思い出してしまったのだ。
「……」
しかし良心でやって頂いている。しかも守ってもらう身、美久は黙って微笑んだ。
子供を見るのは久しぶりな美久、まじまじと巧の後ろ姿を眺めた。
ここで美久は異常な事に気づいた。
巧の手足が震えていたのだ。
Tシャツの隙間から見える肌は青アザと、なにか鞭の様な物で叩かれた蚯蚓腫れの跡。
小指の爪は剥がれ、耳には一度裂けたような跡があった。
(虐待……?)
クミが戻ってくるまで平常心を保とうとする。
少し横目でベランダの外を見ると窓に反射した文也の姿が見えた、首をクリンクリンと動かしながら美久の肩を揉んでいた。
思わず肩に力が入る。
「あれ~どうかした?美久さん?」
「あ、いえ、少し痛くて、肩揉まれるの慣れてないんです、すいません」
美久の視界の左側からにょきっと文也の顔が伸びて来た。
鼻息が耳に当たる。
(早く戻って来てクミ!)
心の中で叫び続けるもクミに聞こえるはずもなかった。
肩を揉んでる文也の手が前に下りてくる。
美久は恐怖で動けない。
前にいる巧はテレビを見ているようで見ていない。
まるで小鹿。震えているだけだった。それ以上動く気配はない。
目だけで右を見ると台所に立っているバーバラ。こちらを見ているようで、見ていない。
文也の生臭い息で息苦しくなる。鼓動が文也の手に伝わるのを防ぐため一生懸命呼吸を整えようとした。
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