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短編集 1
■山よ 時の流れよ■
毎日見ていた風景だった
窓を開けると遠くに山が僕らの町を囲む
風吹くそれは緑の大合唱
されど特に心に響かず普通の日々 高2の初夏
僕は まだこの山の向こうを知らない
きっと裏側は海があって見たことのない大きな街があるのだろう
知らない者にとっての山の反対側 向こう
どこまでも膨らむ希望と期待感
山を眺めるのが長くなった 高2の夏
時は経ち 目の前の現実的な課題をこなす毎日
生活の支えは 紙切れの枚数に比例して潤っていく
多少の安心と喜びを感じながら 何か足りない30前の夏
ふと遠くを見る
ここは山が無い
どうしていままで気づかなかったか
毎日何を眺めていたんだろう
人 工場 道路?
あら 不思議だね いつからこうなったのだろう
大人に憧れていたあの時
山をずっと眺めることができたあの時
向こう側への期待への 答え
忘れた頃に 気づくのだね
いつの間にか目指した裏側に着いていたんだね
過去の僕と会えるのなら、彼はきっとこう問うだろう
あの時の期待に満ちあふれた向こう側はどうだった?って
今の僕はどう答えるのだろう
彼の期待に胸を張って応えらるだろうか
山は人生そのものなんだね
頂上を目指して頑張って頑張って
てっぺんにさしかかった時を知らずに
いつの間にか向こう側へ
せめて頂上にたどりついて実感と喜びを
大声で叫ぶことができたなら
どんなに幸せだったろう
どんなに充実していただろう
山よ そして向こう側の知らない君よ
向こう側にいくと戻れないからこそ
いつまでも青々しく心豊かであれ
そして山を愛する素敵な人間であれ
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