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一人だけ、目立っていた。
すり抜けて駆け出し、すばやくゴールを決めている。
此方からは背を向けていて見えないが、背中を見ただけで、足が震えてしまった。
「絢ちゃん」
チャラチャラと鍵を鳴らしながら、すみれも現れた。
「? お前起きるの早いな」
「違うわよ。絢ちゃんが携帯にメールしても電話しても繋がらないから待ってたの。はい、鍵」
「あ……」
すみれが俺の手に鍵を握らせた。
「葉山くんから私が受け取っておいたの。
なんなら鍵、交換しても良いけど?」
後輩二人はお土産のお菓子に夢中で、俺とすみれの話はあまり興味がなさそうだ。
「ありがとう。携帯、充電器を寮に忘れててさ」
「絢ちゃんらしいね」
3年はとっくに部活は引退しているはずなのに。
夏休み中、ずっと部活していたのは何故だろう。
――スポーツ試験でもあるのか?
「葉山が気になる?」
すみれにそう言われ、俺はあいつの背中を睨み付けていた事に気づいた。
「いや。やっと関わらずに済むからさ……」
そう言いながらも、不安はぬぐいされなかった。
携帯を、
――携帯を開かなければいけないのだから。
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