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片付けが終わり、校門を潜り抜けたのは真っ暗になってからだった。
すみれや女の子たちは先に帰ったり先生たちの車で送ってもらう事になっていた。
「――よぉ」
校門のすぐ側で、壁に倒れ込むように座り込んでいたのは葉山だった。
体育祭の、歓声や熱気、声援がまだ頭の中で即座に甦ってきた。その中心に葉山は居たから。
「今日はお疲れ様でした」
それだけを言うと、どちらと言わず歩き始めた。
葉山は一定の距離を開けてくれた。
そういえば、葉山の家の場所は知らない。方向は同じで大丈夫なのか?
それどころか俺は、何も知らない。
葉山の趣味とか、
葉山の家族だとか、
いつも睨んでばかりだから笑顔も
知っているのは、バスケ部部長だという事。
足が速い事、鼾がたまに煩い事。
俺を壊すぐらい情熱的なキスをする事。
「葉山は、兄弟はいるんですか?」
そう後ろを振り向かず聞くと、遠くから返事が帰ってきた。
「いや」
それが不器用で少し笑えた。
信号で赤になり、俺は空を見上げた。
「お互い、何も知りもしないですよね。
俺は弟が居ます。可愛いですよ」
「知らなきゃ、駄目か?」
今度はすぐ後ろで声がする。
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