星に願いを、月に祈りを

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突き抜けるかのように、冷たい風が頬を撫でる 淡いピンクのマフラーに顔を埋めて、深夜の街を歩く少女の影があった 街は静まり返っているとはいえ、街灯は張り切って行く道を照らしていた 彼女が歩む先には、小さな丘が存在する そこにはやや小ぶりとはいえ、昔からそこに建つ展望台があった 今、彼女が目指している場所である 普段から人通りが少なく、1人になるのには最適な場所だ この辺りに住んでいる人でさえ、その存在は無関心に近い 彼女は昔から、嫌な事や悩み事がある度にそこへ足を運んでいた 最後に訪れたのはいつだったか… それは数年前… 両親が居なくなったその日、そこで一夜を明かしたのだったか そして、強くなろうとして、次第にそこには訪れなくなっていった だが、どうやらそれは叶わなかった こうして、両親の命日にまた訪れようとしている 両親に一番近い場所を求めて、足を運んでいる 特別嫌な事があったわけではない だが、無性に恋しくなった 家に居ると昔の楽しかった日々が、逆に自分を苦しめる それに耐えきれず、外へと飛び出した こんな時間…きっと、警察に見つかれば補導されるのだろう 学校でも、1人で出歩くのは危険だと何度も言われ続けてきた覚えもある だが、その歩みが止まる事は無い 真っ直ぐに展望台へと歩いていく 丘の麓まで辿り着くと、街灯はもう見当たらない 月明かりだけが優しく、誘うようにその先を映し出していた 一歩、踏み出し坂を上がる 古い展望台には少し砂埃が溜まり、一層物寂しさを感じさせる そんな中、彼女は一つ気が付いた どうやら、最近人がここに訪れたらしい まだ新しく見える靴の跡が、眩いくらいの月明かりに照らし出されていた ふわりと風が吹く それと同時に、視界を影が刺した
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