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真っ暗闇覆われた視界に驚き鼓動が早まる
月が雲に隠されたのかとも思えたが、そうでないと気付くのは刹那
おそらく何かが顔を覆っていると結論を下した
もしかしたら、あまり綺麗とは言えないものが張り付いているのかとも思い、それを引き剥がす
手袋のせいで触感はわかりづらかったが、これは毛糸らしきものだ
風が更に吹き付け、その寒さに身震いする
しかし、その風は同時に人を運んで来た
彼女の握る手の内の布…よく見れば、マフラーの持ち主だろうか
展望台の影から少し焦った様子で姿を現せた
「すみません、そこらにマフラーが飛んで来ませんでしたか?」
若い男の声
暗がりで判別するのは難しいが、年は然程変わらない少年のようである
やはり、今のはマフラー
彼女は無言で握る手を上げて見せた
「あっ…それです! 拾ってくれて本当にありがとう!」
少年の言葉から、このマフラーは余程大切にしているものだと見受けられる
少女はその言葉に、小さく首を横に振った
「ふふっ…これは飛ばされたのが偶然、私の顔に張り付いただけですよぉ」
出来るだけ柔らかく、そう意識しながら笑みを浮かべた
暗がりの中お互いの顔はハッキリと見えないのだろうが、久し振りに人と言葉を交わす彼女にとっては、それだけで緊張が振り切れそうになる
「あ…ごめん」
「いえ、大事なものなんでしょう? どうぞ…」
申し訳なく思ったのか、頭を下げる少年の首ににマフラーを掛ける
緊張と焦燥に震える手は寒いからだと…
「うふふ…まさか、こんな時間にこんな場所で人と会うとは思いませんでした」
「それは…僕も、同じ…かな?」
少年ははにかみながらもマフラーを巻き直しつつ答えた
だが、それも直ぐに真面目な顔付きに変わる
「でも、そんな事より…君はここに1人で来たの?」
「ええ、そうですよぉ」
「そんな…女の子がこんな時間に1人だなんて危ないよ!」
その言葉は、見ず知らずの少女を本気で心配しているようだった
余計に緊張が強くなるのを感じる
「いいんですよ、私なんて…何処に居ても私を咎める人なんて、もう居ないんですからぁ…」
「あ、ぅ……」
心配してくれるのは嬉しかったが、それ以上に怖かった
何に対して感じる恐怖なのかも分からないまま、彼を突き放す
その中に含まれる言葉の意味を多少なりとも感じられたのか、それ以上の言及は無かった
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