Quest3-2 『勇者、ひっそりプロキオンを救う』

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暗所や閉所はそれほど苦にはならないが、洞穴というのは一つだけ困ったことがある。 それは、時間の感覚だ。 暗く、狭く、同じ様な景色が繰り返される洞穴内部では、どれくらい歩いたのか、どれほど時がたったのかがすこぶる判りづらい。 こういう時に頼りになるのが腹時計なのだが、あいにく昼飯は洞穴に入る前に済ませたばかりだ。 「なあ、クロウ。今、何時だ?」 「それが、てまえにもさっぱりでして。申し訳ありませぬ」 やはりクロウも人の子か、この閉鎖空間では感覚が働かないらしい。 そこで俺は、人外の生き物にも一応聞いてみることにした。 「バティはどうだ?今何時頃かわかるか?」 「あい、旦那しゃま」 いつも通り、返事だけはいい精霊もどき。 だがこう見えてコイツは、空返事を多用するから油断できない。 「バティのお腹はいっぱいなので、まだお昼でしゅ!」 「……ああ、そう」 やはり、コイツに聞いた俺が悪かったようだ。 今後、バティに意見を求めるのは、もう止めよう。 そんな感じで俺ががっかりしている間も、洞窟探検は滞りなく進んでいた。 普通洞穴というのは奥へ行くほど下っているイメージだが、そこは山の中の洞穴。 全体的に登り坂の連続で、しかも所々で急斜面となっている場所もあった。 「ほら、バティ、掴まれ」 「あい、旦那しゃま!」 「ち、違う!腕に抱きつくんじゃない!危ねえ、危ねえって!」 そんな難所をいくつか突破しつつ、穴の中を登り続けることしばらく。 俺たちは、ようやくそれらしき所へとたどり着くことができた。 そこは、より高い天井とより広い幅を持った、例えるなら城下町の大通りのような空間だった。 おそらくこの通りを真っ直ぐ進めば、この大霊峰の中心地、すなわち火口へと通じているのだろう。 その証拠に、大通りと化した洞穴の突き当たりからは、外の光が差し込んでいるのが確認できた。
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