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暗所や閉所はそれほど苦にはならないが、洞穴というのは一つだけ困ったことがある。
それは、時間の感覚だ。
暗く、狭く、同じ様な景色が繰り返される洞穴内部では、どれくらい歩いたのか、どれほど時がたったのかがすこぶる判りづらい。
こういう時に頼りになるのが腹時計なのだが、あいにく昼飯は洞穴に入る前に済ませたばかりだ。
「なあ、クロウ。今、何時だ?」
「それが、てまえにもさっぱりでして。申し訳ありませぬ」
やはりクロウも人の子か、この閉鎖空間では感覚が働かないらしい。
そこで俺は、人外の生き物にも一応聞いてみることにした。
「バティはどうだ?今何時頃かわかるか?」
「あい、旦那しゃま」
いつも通り、返事だけはいい精霊もどき。
だがこう見えてコイツは、空返事を多用するから油断できない。
「バティのお腹はいっぱいなので、まだお昼でしゅ!」
「……ああ、そう」
やはり、コイツに聞いた俺が悪かったようだ。
今後、バティに意見を求めるのは、もう止めよう。
そんな感じで俺ががっかりしている間も、洞窟探検は滞りなく進んでいた。
普通洞穴というのは奥へ行くほど下っているイメージだが、そこは山の中の洞穴。
全体的に登り坂の連続で、しかも所々で急斜面となっている場所もあった。
「ほら、バティ、掴まれ」
「あい、旦那しゃま!」
「ち、違う!腕に抱きつくんじゃない!危ねえ、危ねえって!」
そんな難所をいくつか突破しつつ、穴の中を登り続けることしばらく。
俺たちは、ようやくそれらしき所へとたどり着くことができた。
そこは、より高い天井とより広い幅を持った、例えるなら城下町の大通りのような空間だった。
おそらくこの通りを真っ直ぐ進めば、この大霊峰の中心地、すなわち火口へと通じているのだろう。
その証拠に、大通りと化した洞穴の突き当たりからは、外の光が差し込んでいるのが確認できた。
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