Quest3-2 『勇者、ひっそりプロキオンを救う』

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「暗いな」 洞穴の中だ。 入り口からの光は二、三度道を折れ曲がると途端に途切れ、火成岩で覆われた内部は足元すらおぼつかない暗闇に包まれた。 この暗さではこれ以上進めそうもないし、残念だが引き返すしかないだろう。 「ダスティン殿、これを。ちょうど松の枝が落ちておりましたので、拾っておきましたゆえ」 「……あんた、もう何でもありだな」 松ヤニで有名な松の枝は、松明としてはもってこいだ。 これで明度は保たれたので、先に進むしかなくなってしまった。 「なあクロウ。あんたひょっとして、洞窟探検がしたかったのか?」 「恥ずかしながら、このような経験、めったに出来ませぬゆえ」 そう照れた様子で目を細めるクロウにつられて、俺も苦笑い。 それでさっきは、それとなくバティのヤツをフォローしたわけか。 「ダスティン殿は渋っておられましたゆえ、申し訳ありませぬ」 「まあ、いいさ。洞窟探検したからって、毎回死にかけるわけじゃ無えだろうしな」 二度あることは三度あるとはよく言うが、そうとも限らないのが現実ってものだろう。 なんてなことを話ながら、俺たちは洞穴の中を進んで行った。 自然に出来たものにしては穴の幅は広く、立って歩けるほどの高さもゆうにある。 暗さのためあまり隅々まではわからないが、どうやら火成岩の上にうっすらと土が堆積しているらしく、所々に植物らしき影も見えた。 「こんな暗い場所でも育つなんて、植物は強いもんだな」 「左様ですね。あの花など、鮮やかな白さですゆえ」 五枚の花びらを持つ小ぶりな白い花は、クロウの言うとおり殺風景な洞穴内部に似つかわしくない存在感を放っている。 それでかどうか、名も知らぬ野生のその花は、なぜか俺の記憶に焼き付いた。
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