黄昏を遊ぶ猫

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優大が東京に帰ることになった。 それより少し前に、美紀は考古学のPh.D.(博士学位)を修得し、小さい研究グループを任されるようになっていた。 現実的な話し、学費などはどうしていたのだろうか……。 日本料理屋のアルバイトだけで賄えるとは到底思えない。 優大以外に親しい男がいたのかどうか……。 「さよなら」 「今日で最後なの?」 「‥‥東京に来たら連絡してよ」 「そうね。でも日本にはめったに帰らないから。研究も仕事もあるし……」 「そうだよな」 「あのさ‥‥日本に帰る前に‥‥」 「日本へ帰る前に……なに?」 「うううん。帰ったら、家族を大切にして。浮気なんかしちゃ駄目」 「うん」 「でも、たまには思い出して、私のこと」 「うん。絶対に忘れない」 美紀は、なにか大切なことを言いかけた。わかっていたが深く詮索はしなかった。 別れはとてもさわやかで、後味も悪くなかった。 人生にはこんな出来事が1度くらいあってもいい。 最高のエピソード……。 だが、そう思うのはやはり男側だけなのだろう。 美紀にとってはやはり、 『男は親切な顔をしてて裏切るじゃない』 と、その通りの終わり方だったのではあるまいか……。
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