黄昏を遊ぶ猫

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あれから一年。 “去るもの、日々にうとし”という言葉があるが、その言葉通り、美紀からはなんの連絡も無かった。 優大も帰国後、1度たりとも連絡はしていない。 やはり自分自身、うしろめたさを感じているのだろうか。 しかし、決して忘れることはできない。 思い出そうとすればなにもかも……美紀のくせや体の特徴まで、細かく思い出すことができる。 だが、この1年間は思い出すこと自体を放棄してしまっていた。 優大はベッドの中で目を閉じ、美紀の記憶を呼び起こした。 クアラルンプールの街並みが浮かぶ。 マンションの下の公園を、美紀と2人で歩いている。 公園の中心にあったモスクがいびつに傾いている。 大きな黒い蝶が飛んでいて、それが黒いコウモリに変わり、鳥になって飛んでいった。 ──あぁ‥これは夢の中なんだな── と唐突に思った。 眠りが浅いと、夢を見ながら自分が寝ていることを意識する瞬間がある。 美紀が、ススを抱っこしている。 よく見ると、ススのお腹から白いヒモのようなものが垂れ下がっている。 ヒモを手繰ると、そのヒモは美紀の下腹部に繋がっていた。 ──これは…まるで…へその緒…?── その瞬間、なんとも言えない吐き気に襲われ、目を覚ました。 姿勢を起こし時計を見る。 「あなた?どうしたの?」 有弓が半分寝ぼけた声で言う。 時計は深夜2時過ぎ。 「変な夢を見たみたいだ。もう大丈夫だから」 「飲みすぎたんじゃない?」 「そうかもしれん」 優大は布団を直し、再びベッドに潜った。
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