黄昏を遊ぶ猫

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背広を脱ぎ、ネクタイをゆるめ、ワイシャツごと脱いで放り投げた。 ──少し飲みすぎたかな…── この春、名古屋へ出向する同僚がいて、送別会の後は同期入社の仲間だけで思い出の飲み屋をはしごした。 同僚の出向は、出向とは名ばかりの事実上の“クビ”である。 地方の小さな証券会社への出向。役職も低い。 銀行に勤める優大らにとってこの手の“出向”は、この先、銀行員で無くなることを意味する。 その意味を知るものどうし、深く酒を飲み交わし、気がつけば終電の時刻だった。 「すまんが帰るよ。俺は少し家が遠いから」 なんとか間に合い、2つ目の駅で前の席が空いた。 15~20分くらい寝ただろうか。 大分酔いが醒めた。 家は天王洲の3階建て。JRで浜松町まで行きモノレールに乗り替える。 「遅かったのね」 眠っていると思った有弓がくぐもった声で言う。 「あぁ。川上の送別会のあと、二次会をやったから」 「川上さん、ご家族はどうするの?」 「単身で行くらしい。まぁ名古屋はそう遠くないし、マレーシアなんかよりは断然近いさ」 優大自身、単身赴任でマレーシアにいたことがある。 海外展開へ向け、クアラルンプールの支店への出向を命じられたときは、家を買ったばかりだったし、子どもたちもまだ小さかった。 妻と子どもを日本に残し、3年間、単身でひたすらにマレーシアで従事した。 シンガポールの大手銀行との契約がまとまり、東京の本店へ栄転することとなったのは、つい1年前のことである。
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