黄昏を遊ぶ猫

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「理恵がね、猫を拾ってきたのよ。家の玄関先で、誰かを待ってるみたいにじっと座ってたんですって」 「ふ~ん…それで?」 「自分で世話するからどうしても飼いたいって。寛も一緒になって言うのよ」 ──なんだ、そんなことか── 有弓の深刻な面持ちに、内容がなんともそぐわない。 「いいじゃないか。飼わせてやれば」 「でもあなた、猫、嫌いでしょ?」 「いや、特に嫌いでも好きでもないけど……」 つぶやきながら有弓の顔を見ると、驚いたような目で見つめ返された。 「そうなの?だって結婚前に言ってたじゃない。猫は何を考えてるかわからないようなところがあるから嫌だって」 「そんなこと言ったっけなぁ‥‥。でも、いいよ。子ども達は、ちゃんと世話するって言ったんだろ?」 「ええ…」 猫が嫌い── その会話は覚えていない。 何年も前のことだ。 言ったとしても、言い方が少し違っていたのではないだろうか。 昔から、「犬派か?猫派か?」などという話しをすれば、優大は間違いなく“犬”と答えていた。 動物の好き嫌いは、少なからず育ってきた環境や習慣に関係があると思っている。 昔、祖父の家で『ボブ』という名のパグを飼っていた。 法事などで祖父の家に行く度、一緒に遊んだことを思い出す。 このような経験があれば自然と、動物、とりわけ犬を可愛がるようになるのではないだろうか。
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