引越し

1/1
前へ
/4ページ
次へ

引越し

体の芯まで凍えるような真冬。 この日、俺は人生で二度目となる引越しを経験をした。 「荷物、運び終えましたよ」 青い制服に身を包んだ引越し業者の男。 「どうも」 頭を小さく下げると、その男は制服と同じ青色の帽子を取って一礼。 「ご利用ありがとうございました」 とびきりの笑顔を向けられた。 俺は営業スマイルでも、こんな笑顔を作ることは不可能だろう。 「あ…っと…代金は?」 財布を取り出すと、業者の男は慌てた様子で。 「もう、お代金は頂いてます」 「…は?」 払った覚えなんてないんだけど。 「お客様のご家族から頂いてますよ。どうしてもと仰られたので…」 …親父か。 「それでは、失礼します」 もう一度頭を下げて、車に乗り込む業者。 義理の親父の顔を頭の中から消して、俺はマンションへと入った。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加