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引越し
体の芯まで凍えるような真冬。
この日、俺は人生で二度目となる引越しを経験をした。
「荷物、運び終えましたよ」
青い制服に身を包んだ引越し業者の男。
「どうも」
頭を小さく下げると、その男は制服と同じ青色の帽子を取って一礼。
「ご利用ありがとうございました」
とびきりの笑顔を向けられた。
俺は営業スマイルでも、こんな笑顔を作ることは不可能だろう。
「あ…っと…代金は?」
財布を取り出すと、業者の男は慌てた様子で。
「もう、お代金は頂いてます」
「…は?」
払った覚えなんてないんだけど。
「お客様のご家族から頂いてますよ。どうしてもと仰られたので…」
…親父か。
「それでは、失礼します」
もう一度頭を下げて、車に乗り込む業者。
義理の親父の顔を頭の中から消して、俺はマンションへと入った。
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