伊井友人の憂鬱

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俺は伊井友人(いい ともひと) 変な名前って突っ込みはいらねぇ。 俺は今、リビングでゴロゴロしてる。 同じように横になってる親父の背中とテレビを交互にボンヤリ眺めて、暖房の効いた部屋でのんびり…。 社会人になって、この何気無い時間が幸せに感じることが多くなった。 「親父、今日も平和だな。」 「だな。」 俺と親父が物思いにふけっていると、背後から掃除機のうるさい音が迫ってきた。…お袋だ。 「ちょっと! 2人してデカいのがゴロゴロゴロゴロ! 今日は忙しいんだから、アンタらもちゃっちゃと動きなさい!」 あーぁ、うるさいのが来た。 そういや今日は大晦日だっけ。 定番っちゃ定番だけど、うちでも大掃除はこの日だ。 「あー、ダリィ。」 「あー、ねみぃ。」 邪魔! と、ガスガス掃除機を背中にぶつけられた俺と親父は渋々立ち上がって、アクビしたり首を鳴らしながらのそのそ行動を開始。 そんな俺たちの姿がお袋には瓜二つに見えたようで、苛々半分・呆れ半分で『本当そっくり!』なんて言われてしまった。 「全く…。達間(たつま)だけは率先してやってくれるってのに…。」 お袋がブツブツ文句言ってる。 …あぁ、達間ってのは俺の弟だ。 そういやアイツどこいった? さっきから姿が見えない。 「なぁ、達間どこだ?」 「達間ならお風呂掃除してくれてるわよー。」 どうやら風呂場にいるらしい。 よし、ちょっとからかいに行くか。 え? 掃除しろって? バーカ、それよりもアイツをからかうのが先だ。 「おい達間ぁ、お前なに張り切ってんだよ。お年玉目当てか?」 「あっ、兄貴! 別にお年玉とか…い、いらねーしっ!!」 風呂場に行くと達間がせっせと浴槽を洗っていた。 お年玉いらねぇとか言ってる割りには歯切れ悪いし、目も泳いでる。 解りやすいんだよ、お前は。 ま、だからこそ面白いんだけどな。 「あっそ、いらねぇの? んじゃお袋にそう伝えとくわーw」 「は、はぁっ!? なななんでそうなるんだよっ!!」 ほらみろ。つか、動揺しすぎw もうすぐ高3になるらしいけど、やっぱコイツもまだまだガキだな。 6つも歳が離れてるから余計にそう思う。 「嘘嘘、言わねぇよ。…なんて顔してんだお前w」 「う、うるせぇっ!!」 普段は強気な目してるくせに、こういうときだけ不安そうな顔しやがるから面白い。
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