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ふと、那秋の顔を見た刹那。
真っ青な細い手が、那秋の体にまとわりついていた。
思わず呼吸が止まる。
思考停止というのはこういうことなんだと、毎回思い知らされるが、ここまでびっしりと絡む手を見たのは初めてだった。
無数の白い手が、那秋を包むように囲んでいる。
誰かが、那秋を恨んでる……?
いや、何かが違う。
無数の青白い手の中の一つに、どこかでみたことのある指輪をしていた。
左手薬指にピンクゴールドの小さなダイヤモンドがいくつか入っている。
その手がそっと、那秋の頬を撫でていた。
まるで、涙を拭うように、ただ優しく撫でている。
これって………。
「なぁ、那秋」
「……なんだ」
「茉美ちゃんに初めて買ってあげた誕生日プレゼントって、小さめのピンクゴールドの指輪か?」
茉美ちゃんの名前を聞くと、那秋は不機嫌そうに「あぁ」とだけ言った。
「クロスしたところに、小さなダイヤモンドが一列に並べてあるやつだよな?」
「………」
黙り込む那秋に、俺は確信する。
この無数の手は、“茉美ちゃん”なんだ。
でも、なんで手だけ?
確かに、焼死した姿で出られても怖いけど…。
それでも、彼女がいるってことを那秋に伝えてやりたい。
「那秋、今お前のそばにま…」
ダンッッ!!!!!
その瞬間、取り囲んでいた無数の手は空気に溶けるように消えた。
「……なぁ、もしも、もしも茉美がそばにいるとか、いないとか、絶対、俺の前で言うなよ…」
あまりの剣幕に、俺は口を噤むしかなかった。
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