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「まぁ、別に行きたいとこないし、横浜行くか!」
ここは那秋の言う通り、横浜まで行くことにした。
気分転換もいいだろ。
少しは、茉美ちゃんの死を受け入れつつあるのだろうか。
あの日以来、あの無数の手を見ることがなくて、見間違いだったか。とさえ思う。
茉美ちゃんの母親から、時折那秋の元に電話がくるそうだが、母親ですら声を聞くのも苦しそうだった那秋も、今は少しずつ、元気も出てきている。
このまま回復して、新しい人を見つけられたらと思った。
まぁ、暫くは無理だと思うけど。
一時間半かけて、横浜へ向かった。
大きな大観覧車も、赤い倉庫もランドマークも照明が消えていて、ただ静かな波音だけが聞こえる。
大桟橋まで来たのはいいけど、カップルばかりで居心地は最悪だった。
その中でも屈せずに、みなとみらいを一望できるそこを満喫している那秋はすごいと思った。
「さみぃーな、秋だと思ってなめてたわ」
「海沿いだし、そりゃー寒いだろうな」
二人で肩を震わせながら海を眺めた。
こうやって、茉美ちゃんと観てたのかな。
夜に映える、絶景を。
「逢える気がした…」
「え?」
「俺、茉美を忘れよう忘れようって考えてきてさ、なのに、逆にあいつのことばっか考えてて…自分にムカついてる…」
「……忘れる必要があるのか?」
そんなに苦しむくらいに。
那秋は静かに首を横に振って、顔を伏せた。
「オレ…どうしたらいいんだろ」
今にも壊れてしまいそうな声で呟くから、俺も泣きそうになる。
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