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《一緒ニ居テクレルッテ…言ッタヨネ……那秋》
禍々しい声が、ハッキリと聞こえた。
「ウソ…だろ?」
唇がめくれあがって、歯茎が丸見えで、髪の毛も抜け落ちて、頭皮がずり落ちている。
骨も露出して、焦げた臭いが鼻につく。
部屋は、炎の渦に巻かれていた。
バスが横転したその下に、俺と那秋はいて、座席に挟まれた茉美ちゃんが真上にぶら下がっていた。
どうなってんだよっ……?!!
ゴオォオォォオッッという炎に焼かれていく音がした。
真上にいる茉美ちゃんは血が滴っていて、意識が朦朧としている。
唇から鮮血が滴って、俺の頬にヒタヒタと零れてきた。
爆発音が鳴り響くと共に、茉美ちゃんは強く握っていたスマホをゆっくり持ち上げる。
その瞳から、ただただ彼に会いたいと願う想いが入った涙が零れ落ちていく。
それをまた頬に受けて、俺は彼女を助けなければと思った。
那秋は風邪で倒れ込んでいて、動く気配はない。
「おいっ、なあきっ!!!起きろ!!茉美ちゃんがっ…茉美ちゃんがぁぁっーーー!!!!!」
助けようともがく俺の腕は、なぜか届きそうで届かない。
茉美ちゃんは、ただ力絞るようにスマホに指を滑らせて。
画面は血だらけで、あまり見えない。
『なあき たすけて』
一度打ち込んだ文字を送信しようとした彼女は、想いが込み上げてきたかのように嗚咽しながらそれを消した。
なあき たす┃
┃
あ┃
あし ┃
あし はさまたて┃
あし はさまたてあこかない┃
送信
どうし┃
爆発音でふと、彼女の手からスマホがすり抜けていった。
「茉美ちゃ……!!」
『那、あ、き……なあきっ……会いたい…よッ……』
“最後だと言うならもう一度だけ、会いたかったよ…那秋”
ふと、茉美ちゃんと目が合った気がした。
彼女は優しく笑ってこう言った。
『そこにいたんだね…那秋…』
もう、会えないかと思った。
もう、大好きと言えなくなるところだった。
一緒にいてくれるって約束したのに守れないかもしれない。
那秋、那秋…
『もう、一緒にいられないな…』
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